JOURNAL

2022.06.17

_経緯

HEPがうまれるまでの道のり

ヘップサンダルとは

奈良で1952年よりサンダルの資材卸や企画を営んできた川東商店の4代目、川東宗時さん。アパレル関係のお仕事を国内外で経験され、地元奈良に戻り、家業に入られていました。

元々川東商店では履物の資材卸や企画販売などをされており、そのほとんどが、ヘップサンダルと呼ばれるものでした。いわゆる玄関に1足はあった「つっかけ」というとイメージしやすいでしょうか。ひと昔前は奈良の地場産業として栄えたものの、海外生産が主流になってから国内生産は大きく減少し、奈良のつくり手も減少していました。

奈良出身の私は、草履や雪駄が奈良の地場産業であることは知っており、草履は身近な存在だったため、前職で商品企画・デザインをしたことがあったのですが、ヘップサンダルという言葉はその時初めて知りました。しかし実家の玄関や勝手口には、もちろんヘップサンダルは完備されています。名前は知らなくとも、その存在自体には馴染みがある人は多いのではないでしょうか。

ちなみにヘップサンダルという名の由来は、映画「ローマの休日」のオードリー・ヘップバーンが由来といわれています。

旧来のヘップサンダル

ブランド立ち上げに向けて

中川政七商店主催の経営とブランディング講座にて、川東さんは既に一度ブランドの草案を作られており、実際に立ち上げを進めていく段階の2019年の年明けより共に取り組みをはじめました。構想はある程度できている状態でしたが、実現化のためにリサーチやイメージ収集を更に重ねて、川東さんの想いを掘り下げていきながら、何度も意見交換を重ねてブランドのイメージを共有し、組み立てていきました。ブランド名も、より伝えやすい「HEP」が良いねと話し合い変更しました。イメージコラージュの作成では、ピンときた画像を言葉に変換したり、お互いにこれは近い、いや違うかな、などどういったイメージで進めていくか序盤で深く話し合いました。靴についての歴史を調べたり、ルーツでもあるローマの休日を見たり、お互いにインプットを続けていきました。

ブランドの大枠のイメージができていく中で、それに並行する形で、どういったプロダクトを開発していくのか、商品の企画、製造先、加工方法などの検討を進めていきます。

ちなみにローマの休日では、オードリーの演じるアン王女が、王族の生活から飛び出し街へ出ていくのですが、街にでて最初にしたことが、ハイヒールを脱ぎフラットなサンダルに履き替えることでした。そこから軽やかに街へと繰り出していくのですが、そのサンダルがもたらす気楽さや開放感が、ヘップサンダルの存在へとつながっているのだと感じました。

ヘップサンダルとは

単なる新しいサンダルブランドではなく、自社のルーツである”ヘップサンダル”のブランドとして進めていこうとなりましたが、ヘップサンダルの具体的な定義があるわけではありません。業界的には軽装履というジャンルに属し、洋靴などとは製造の工程なども異なったりと違いは多々ありますが、履く人からするとサンダルということに大きな違いはありません。

単なるサンダルにならぬように、まずは過去のヘップサンダルの要素を研究することにしました。社内にある膨大なヘップサンダルを見せていただいたり、川東さんが収集・整理された資料を拝見しながら、ヘップサンダルたらしめている要素とは何なのか、どういった構成要素があるのか、どういったものが今の時代にあうのか、検討を重ねていきます。

ヘップサンダルには驚くほどの装飾加工のバリエーションがあり、どれも創意工夫がなされていて面白いものの、今これをファッションの一部として取り入れられるかというとなかなか難しい。膨大なサンプルの中から、筋がよく今の時代にもマッチする可能性があるものをピックアップし、デザインリソースとすることにしました。サンダルは色数・サイズ展開とSKU数が多くなりがちです。ブランドを立ち上げるタイミングで、SKU数が多いと製造ロットの兼ね合いもあり負担がどうしても大きい。初回はそのヘップサンダルの形に着目してもらう意味でも、黒1色の展開で挑むことにしました。また、ブランドとしてもジェンダーレスに履いてほしいという想いから、サンダル業界では新しい、ユニセックスでの展開をしていこうという話になりました。

川東さんのリサーチ資料より

ロゴデザイン

ロゴマークのデザインに取り掛かりました。マークは気楽にいったりきたりできるヘップサンダルの気楽さを象徴し、矢印とサンダルをイメージさせるマークにしました。書体は、ローマの休日や古き良き、などがキーワードとして出てきていたので、クラシカルな印象に。海外の看板などもイメージした縦書きロゴを主体に、マークで柄展開ができるものを提案しました。事前によくよく世界観を話し合ったりイメージを共有していたため、デザインについてはスムーズに決定しました。ただブランド名の商標登録に向けては難航し、何度も他の名称やデザイン案も検討したり、共に弁理士さんに相談にいったりと、デビュー直前まで変更の恐れもありました。しかし、最終的には川東さんが粘り強く進めてくださり、商標も無事取得することができました。

商品開発の壁

これまで川東商店では、自社で製造はしておらず、企画した製品を海外の協力工場で製造していました。製造メーカーではなく、ファブレスだからこそできることとして、「履物の編集者」となり、様々なつくり手とつながり、つかい手との橋渡しができる存在になれればと話していました。

ただ製造を海外に切り替えていたことによって、当時県内のつくり手とのつながりは希薄な状況。それでもHEPは奈良発のヘップサンダルブランドとして認知してもらうべく、できるだけ県内でつくりたいと、つくり手探しからはじめました。つくり手の数も減っている中で、奈良で作れるかどうか、はじめはわかりませんでしたが、川東さん主体で探しつづけ、つくり手さんと少しずつつながることができました。まだ実績のないブランドで、これまでの商流をも変えていくチャレンジでしたので、はじめはうまくいかないことがたくさんありましたが、川東さんの縁と熱量でなんとか協力してくださるところが見つかっていきました。

ソール、インソール、アッパー、木型、資材…サンダルは分業制で、サンダルを構成する要素それぞれに難しい点がありました。県外の履物関係の会社や工場を共に訪れては履物の知識をインプットしました。紙で何度も試作を作り、シューズデザインの方にヒアリングしたり、パタンナーさんの協力も得、ラインの微調整を重ねていきました。つくり手の方には何度も粘り強くサンプルを作っていただき、形になっていきました。

この商品化に向けての道のりが最も長かったですが、川東さんの熱量から、つくり手のみなさんの信頼関係も深くなり、出来上がるたびにサンプルの精度が高くなっていきました。産地の熱が上がる瞬間を、私も見れた気がしました。

デビューに向けて

デビューに向けて、商品開発に並行しながら、秋頃から包装資材の設計や、展示会に向けての準備も始めていきます。箱は引き出し式で、購入後も物入れに使えたり、店頭ではディスプレイにも使えるデザインに。展示会においては、今後もPOPUPなどで使えることを考慮した什器の設計を、やぐゆぐ道具店さんに依頼しました。川東商店にあった古い木材や、パレットを活用していただき、展示会だけでなく、どのPOPUPでも活躍する素敵な什器ができあがりました。

また展示会1ヶ月前にサンプルが無事揃い、協力してくださるモデルさんを探し、チームでスタイリングを検討しながら、撮影を行い、リーフレットの作成・WEBの制作などをすすめ、2020年の2月、展示会「大日本市」にて無事にデビューを迎えることができました。

デビュー後、新型コロナウイルスの流行などの逆風もありましたが、POPUPなど催事も行われたり、展示会で出会った小売店での取扱や、自社ECでの販売で順調に数を延ばし、2年連続でアパレルブランドZUCCaさんとのコラボレーションも実現するなど、邁進されています。現在はブランドの組み立て当時に掲げた目標を次々とクリアし、株式会社川東履物商店として法人化。奈良に新たな拠点も準備中です。

INFORMATION

期間:2019.01-2020.02(第一期)

ブランドサイト:HEP